複数の事業所で働く場合の雇用保険

退職手続き

「バイトを掛け持ちしているんですが、雇用保険ってどっちで入ればいいんでしょう?」――こういったご相談、実はとても多いんです。副業や複数のパートを掛け持ちしている方が増えている今、雇用保険の仕組みがよくわからなくて不安に感じている方もたくさんいらっしゃいますよね。

雇用保険は「1つの事業所にしか入れない」というルールがあるため、複数の職場で働いている場合は、どこで加入するかの判断がとても重要になります。間違った理解のまま退職してしまうと、失業給付を受けられないケースも出てきます。今回は、複数事業所で働く場合の雇用保険の考え方と、「主たる事業所」の判断方法を丁寧に解説していきます。

そもそも雇用保険は1つしか入れない

まず大前提として押さえておいていただきたいのが、雇用保険は原則として1つの事業所でしか加入できないという点です。健康保険や厚生年金は「2か所以上で加入する」ケースもありますが(いわゆる二以上事業所勤務)、雇用保険はそうではありません。

これは雇用保険法に基づく制度設計によるものです。雇用保険法第6条では、適用除外の要件が定められており、その中で「同時に複数の事業主の適用事業に雇用される労働者であって、一の事業主の適用事業における1週間の所定労働時間が厚生労働大臣の定める時間数(20時間)未満であるもの」は被保険者とならないとされています。

つまり、掛け持ち勤務でも「主となる1か所」で雇用保険に加入し、そこを中心に給付を受ける仕組みになっています。

⚠ 注意:2024年度から「マルチジョブホルダー制度」が対象拡大中
65歳以上の労働者を対象にした「マルチジョブホルダー制度」(2022年1月施行)では、2つの事業所の合計労働時間が週20時間以上になる場合、例外的に複数事業所への同時加入が認められます。ただし、これは65歳以上の方に限定された特例です。64歳以下の方には適用されませんのでご注意ください。

雇用保険の加入条件をおさらい

複数の事業所で働いていても、そもそも雇用保険の加入条件を満たしていなければ被保険者にはなれません。加入条件は以下の通りです(雇用保険法第6条・第43条等)。

加入条件 内容
所定労働時間 1週間の所定労働時間が20時間以上
雇用見込み 31日以上の雇用が見込まれること
対象者 学生でないこと(一部例外あり)

この条件を「どの事業所で満たしているか」が、主たる事業所を判断する第一のポイントになります。

「主たる事業所」はどう決まる?判断の基準

ここがこの記事のいちばん重要なところです。複数の事業所で働いていて、どちらでも雇用保険の加入条件を満たしている場合、どちらが「主たる事業所」になるのでしょうか?

厚生労働省のガイドラインや実務上の取り扱いでは、以下の順序で判断します。

1
週の所定労働時間が長い事業所
まず「どちらでより長く働いているか」で判断します。たとえばA社で週25時間、B社で週20時間であれば、A社が主たる事業所となります。
2
労働時間が同じ場合は収入が高い事業所
2か所の労働時間がまったく同じ場合は、賃金(月収)が多い方の事業所が主たる事業所となります。
3
それでも同じ場合は労働者本人が申し出た事業所
労働時間も収入も同じという場合は、本人が「こちらで加入したい」と申し出た事業所が主たる事業所になります。ただし、この場合は事業主を通じてハローワークへ届け出が必要です。
📌 実務上のポイント
主たる事業所の判断は、あくまで「雇用保険加入時点」の状況で行います。途中で労働時間や収入が変わった場合でも、自動的に変更されるわけではありません。変更が必要な場合はハローワークへの届け出が必要です。

具体的なエピソードで理解しよう

少し具体的なケースで考えてみましょう。

ケース①:パートを2か所掛け持ちしているAさんの場合

Aさんは、スーパーのレジ(週22時間・月収12万円)と、飲食店のホール(週20時間・月収8万円)を掛け持ちしています。どちらも雇用保険の加入要件(週20時間以上・31日以上の雇用見込み)を満たしています。この場合、週の所定労働時間が長いスーパー側が主たる事業所となり、スーパーで雇用保険に加入することになります。

もしAさんがスーパーを退職した場合、失業給付(基本手当)を受け取れる可能性があります。一方、飲食店だけを辞めた場合は、主たる事業所での離職ではないため、原則として基本手当の受給対象にはなりません(飲食店側では雇用保険未加入のため)。

ケース②:副業を始めたBさんの場合

会社員のBさんは、本業(週40時間・月収30万円)のほかに、週末だけ別の会社でWebライターとして働き始めました(週10時間・月収5万円)。この場合、副業側は週20時間未満のため雇用保険の加入要件を満たしておらず、本業の会社でのみ雇用保険に加入します。Bさんが本業を退職すれば、通常通り失業給付の手続きができます。

あなたはどのケース?

▶ 片方の勤務先だけで週20時間以上の場合 → その事業所のみで雇用保険に加入(もう一方は加入なし)
▶ 両方で週20時間以上の場合(64歳以下) → 労働時間・収入が多い方が主たる事業所として1か所のみ加入
▶ 65歳以上で両方合計週20時間以上の場合 → マルチジョブホルダー制度で2か所同時加入が可能(要申出)

退職するときはどうすればいい?

複数の事業所で働いている場合、退職時の手続きにも注意が必要です。特に「主たる事業所」を辞めるケースと「副次的な事業所」を辞めるケースで、雇用保険上の扱いが大きく変わってきます。

主たる事業所を退職する場合

主たる事業所を退職した場合、通常の離職と同様に離職票が発行されます。ただし、もう一方の事業所でまだ働いている場合(かつ週20時間以上)は、「就職している状態」とみなされ、基本手当(失業給付)を受給できない可能性があります。

ハローワークでは、「失業の認定」にあたり、積極的に求職活動をしており、すぐに就職できる状態にあることが条件とされています(雇用保険法第15条)。すでに別の事業所で一定時間働いている場合は、失業状態とは認められないことがありますので、必ずハローワークに相談してください。

副次的な事業所(雇用保険未加入側)を退職する場合

雇用保険に加入していない事業所を退職しても、雇用保険上の手続きは基本的に発生しません。ただし、その後に主たる事業所も退職した場合には、通常通りの手続きが必要になります。

1
主たる事業所の退職が決まったらすぐ確認
退職後に他の事業所での就労があるかどうかをハローワークに事前に相談しましょう。
2
離職票を受け取る
退職後、事業主から離職票(雇用保険被保険者離職票)が発行されます。退職後10日以内を目安に届くはずですが、遅い場合は会社に確認を。
3
ハローワークへ求職申込みに行く
離職票を持参してお住まいの管轄ハローワークに行き、求職申込みと受給資格の確認を行います。他の事業所での就労状況も正直に申告してください。
✅ 副業・掛け持ちを正直に申告しても大丈夫?
ハローワークへの申告をためらう方もいらっしゃいますが、副業の状況は正直に申告することが大切です。申告した上で「失業状態かどうか」を担当者が判断します。虚偽の申告は不正受給となり、返還命令や場合によっては刑事罰の対象になります(雇用保険法第10条の4)。正直に話せば、担当者が丁寧に対応してくれますので安心してください。

65歳以上の方は「マルチジョブホルダー制度」も選択肢に

65歳以上の方には、2022年1月1日から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が施行されています。これは、複数の事業所で働く65歳以上の方が、2つの事業所の所定労働時間を合算して週20時間以上となる場合に、本人の申出により雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になれる制度です。

この制度を利用するには、2つの事業所それぞれで以下の条件を満たす必要があります。

条件 内容
年齢 申出時点で65歳以上
各事業所の労働時間 それぞれの事業所で週5時間以上20時間未満
合計労働時間 2つの合計が週20時間以上
雇用見込み 両方の事業所で31日以上の雇用が見込まれること

申出はハローワークへ本人が直接行います。加入後はどちらかの事業所を退職した場合、高年齢求職者給付金の受給が可能になります。65歳以上で掛け持ちをされている方は、ぜひ一度ハローワークに相談してみてください。

まとめ

複数の事業所で働く場合の雇用保険について、大切なポイントを整理しておきます。

  • 雇用保険は原則1つの事業所にしか加入できない(64歳以下の場合)
  • 主たる事業所は、①週の所定労働時間、②収入、③本人の申出、の順で判断する
  • 副次的な事業所(雇用保険未加入)を辞めても、原則として失業給付には関係しない
  • 主たる事業所を退職した後も別の事業所で就労している場合は、失業認定に影響する可能性がある。必ずハローワークへ正直に申告すること
  • 65歳以上の方は「マルチジョブホルダー制度」で2か所同時加入ができる特例がある

掛け持ち勤務の雇用保険は、一見複雑に見えますが、基本的なルールを押さえておけば落ち着いて対処できます。「自分のケースはどうなるんだろう?」と思ったら、一人で抱え込まずにハローワークや専門家に相談するのが一番の近道です。

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